闇に抱かれて眠れ

「ベディヴィエール・ルシフェルノ――……？」
「あら、なんかゴツい名前ねぇ…」
少年の口から出た名前を聞き、隣に居た赤い女は率直な感想を口にした。
「ベディヴィエールと謂えば…キング・アーサーの円卓の騎士――かの有名なエクスカリバーを湖の貴婦人に返したという騎士と、同じ名ですね」
そう謂ったのは、少年に影のように添う、すらりとした長身の真っ黒な執事だった。

―――真夜中に轟いた一尽の雷から、早くも三年が経とうとしていた。それはあまりに一瞬の出来事だったが故に、もはや殆どの人々の記憶から消え去っているに等しい。しかしそれとは対照的に、その男はその晩の事を事細かに覚えていた。一日だって、忘れたことは無い。それもその筈、彼はその晩、雷を手に入れたのだから。
「ライ～」
廊下の先にその姿が見えて、劉は小走りになりながらも、今ではすっかりと馴染んだ彼女のその呼び名を呼んだ。直ぐに立ち止まったライは首を回して振り返る。劉はそのままライの細腰に腕を回し、彼女に抱きついた。
「仕事はどうした？」
「終わったよー。だから、遊びに行こう？」
抱きついたくらいでは動じないライの相変わらずな切り返し方に、思わず苦笑が漏れる。