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純白なる悪に惑わされし人の子よ、真なる光を求めよ

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ルペルカリア



「…………………………ゴロさん、何それ」





 ―――如月第拾参日 狗神組、第弐邸
 その日の昼下がり、ゴロベエは家の縁側に横になりつつ、たまの休日をゆったりと過ごしていた。そんな中、幾人かの狗神組の構成員達がいそいそと、何やら包みを幾つも抱えそこを通りすがっていく。
「おい。その荷物はいったいどうしたのだ?」
「――あァ、兄貴。起こしちまいましたか」
 声をかければ、構成員の一人が立ち止まった。
「いやァそれが、ライゾウの姉ちゃんに頼まれちまいまして 何でも明日の為に菓子を作るらしくて。それで俺らの鼻をアテにして、良いカカオ豆を大量に仕入れてきてくれ、と」
「……………………あぁ、何ともあの娘らしいな」
 妙に納得しながら、ゴロベエは小さく頷く。妙な所でライゾウは年頃の娘っぽいのだ。

 バレンタイン―――。それは主に物質界を中心に見られる、男女の誓いの日だ。
 その起源はとある帝国。ユノというすべての神の女王であり、家庭と結婚の神の祝日。ちなみに翌日は豊年を祈願する(または清めの祭りでもある)ルペルカリア祭の始まる日であったらしい。
 そして兵士の自由結婚禁止政策に反対し、皇帝の迫害下で殉教した司教ウァレンティヌスに由来する記念日だ。
 商業戦略によって少し捻れて定着化した部分も少なからずある、行事の一つだ。近年では捻れが修正されようという流れも聞くが、おそらくはそれもまた商業戦略だろう。

「二月十四日といやァ、若や俺らならブラッティ・バレンタインのほうを思い浮かべちまいますがね」
 とあるギャングスターが指揮したという虐殺事件を取り合いに出す構成員も、如何にもらしい。肩をすくめる素振りをした男に、ゴロベエもまたおどけた仕草で笑った。
「それじゃァ俺らは此処らで あまり遅くなると間に合わなくなるって釘を刺されてんで」
「引き留めて悪かったな」
「いえ、俺らこそお休みの所を邪魔致しやした」
 軽く会釈してから、男は門の方へ歩いて行く。
「ふむ……」
 一人残されたゴロベエは、ふいに何かを思い至ったようだった。どこか楽しげな雰囲気をまといながら、彼は廊下の奥へと消えた。


 □■ ルペルカリアの休日とチョコレート ■□


「――――……………。」
 ―――数日後。再び、狗神組 第弐邸、夕刻
 芳しい匂いに敏感に気が付き、疑問符を浮かべつつ台所に入って来たリョウは、その光景に思わず身を翻しそうになった。
 弟分の政宗も料理好きだったりする所為か、彼女は台所に男が立つ事に関して何も疑問はない。が、ゴロベエは少々似合わぬ物をこさえている。
「…………………………ゴロさん、何それ」
 充満する甘い匂い。
 ボールの黒い液体はドロドロに溶けたチョコレートだろうか。トッピング用なのか大粒の真っ赤な苺が傍らに転がっている。
「ほれ、先日はバレンタインなる祭りの日だったのであろう? 遅れたが折角だからテリーヌ作りに挑戦してみようと思ってなぁ」
「にしたって、よくこんなモン作ろうなんざ考えたな」
 半ば呆れながら、そして軽く引き気味ににりながらもリョウはその手元を覗きこむ。
「調べてみれば案外簡単そうでな」
「(………………なんか……やっぱ似合わねェな……)」
 確かに菓子作りも力がある男の方が作りやすいだろう。しかしただの料理ならそうでもないが、やはり菓子作りとなると違う気がする。
「ちょうど良い、おぬしも手伝え」
 唐突な申し出に、リョウはきょとんとして声をあげた。
「…………え?」
「たまにはこういうのも悪くは無かろう。それにおぬしも、甘いものはそう嫌いではあるまい」
 言いながら、卵白の入ったボールと砂糖が手渡される。
「……メレンゲって案外大変なところじゃなかったっけ?」
「おぬしなら造作も無かろう?」
「まァ……そうだけどさ」
 そう言いつつもリョウは案外満更でもなさそうで、笑いながらゴロベエは卵黄に砂糖を加え混ぜ合わせ始める。それから湯銭したチョコレートを加えて、出来上がったメレンゲを合わせた。
「あとは型に入れ、湯をはった天板に乗せ焼いて冷まして好きに飾ればせば完成だ。………どうだ、簡単であろう?」
 オーブンに生地を突っ込むと一先ず出しっぱなしになっていた苺を片付け、二人並んで洗い物を始末する。

「ていうか……いつこんなモンの作り方なんか調べたんだ?」
「なに、神龍寺にちと電話してリュー殿に聞いてみただけの事だ。材料もライゾウあたりから余ったおこぼれを貰ってな」
 リューこと、メタル・リューは料理好きなサノスケの妻だ。成る程、彼女の推薦なら少し頷ける。……今頃触発されて大量にチョコレート菓子を作っているのではなかろうか。
「―――あ、そういや余ったのはどうするんだ?」
 その言葉に、ゴロベエはふと手を止める。ライゾウが余分に分けてくれていた分が綺麗に余ってしまったのだ。湯煎で溶かした物も少し余っている。ちなみに飾り付けは既に成形して冷蔵庫で冷やしてある。
「ふむ、溶かしていないものはしばらく置いて置いても良さそうだが……どうしたものかな」
 考えながら手を拭き、ゴロベエはなんとなしに溶けたチョコを小指で掬い取った。ゴロベエの褐色の肌よりなお黒い液体がトロリと指を伝う。口に含めば、独特の苦さを従えて、ほんのりとした甘味が広がった。
「そうだなァ、これだけありゃァ……生チョコとかくらいは作れるんじゃねェか? 酒なら少しはあるぞ」
 戸棚を開けば、いくつもの洋酒の瓶がそこで眠っていた。ラム酒、リキュール、ブランデーにウィスキー……。瓶から埃を剥ぎ取ると、ラベルが久方振りの日の光を浴びる。なかなかに年期がありそうなボトル達だ。
「アイゼン殿のミニボトルコレクションという事は無いのか?」
「親父のコレクションはちゃんと本邸に持って行ってあるよ。コイツらはアタシがこの家に来た時に親父が置いてったのさ。餞別だってな。……まァ、スプーンに数杯程度しか使わねェから、新しく開けないけどさ」
 ボールで生クリームを混ぜ込み、小さいバッドにチョコレートを小分けして少量の洋酒を振りかけしっかり混ぜ合わせる。後はすっかり冷やしてから切り分けてココアパウダーでもまぶせば良いだけだ。
「しかし餞別なら何故飲まなかった?」
 その問いに彼女は苦笑を漏らす。
「――まァ、言っちまえば暇が無かっただけさ。貰った時は酒の味の解らねェガキだったし、修行がてら師匠にくっ付いて外の世界を見て歩いてた。神羅に入ってからも家で過ごす事なんざそんなに無くて……戸棚に酒が眠ってる事も殆ど忘れてたくらいだからな」
 淡々と言葉を綴り、リョウはバッドを冷蔵庫に放り込む。
「それに一人酒かっくらうには勿体無ェしな」
 冷蔵庫をバタンと閉じ、立ち上がろうとしたその時。
 ――リョウは違和感に気付いた。ゴロベエの気配を間近に感じたその刹那、背後から腕が絡みつく。
「――……あ? ぇ、ゴロさ、――――んぅ!?」
 何事かと体を捻ったのが災いだった。あっさりと唇を奪われた挙げ句、差し込まれた舌先が口内をかき回してくる。
「んっ――……ふ、ぅ……っ――んんっ……」
 思わず声を上げるが、口が塞がれている所為で不明瞭な音が漏れるのみ。ゴロベエにしっかりと捕まえられ、身動きが出来ない。不意にゴロベエのその無骨な手が衣服の間から差し入れられた。滑らかな肌の感触を楽しみながらマッサージするように愛撫していけば、面白いようにリョウの力が抜けていく。頃合をみて唇を離すと、混ざり合った唾液が銀糸の糸を引いた。
「……、―――何……すん、だよ……っ」
 リョウは生理的に浮かんで来た涙を浮かべながら、呼吸を整える。強気に振る舞うが、その光景がなんとも愛らしい。
「この状況下でやる事は決まっておろう」
 にべも無く答えて、首筋に顔を埋める。甘い香りが鼻をくすぐった。
「っそう――じゃ、なくて………何で、いきなり……」
「愛し合う男女の営みに何か理由が必要か? まぁ、強いて謂えばおぬしがあまりにも美味そうでな」
「―――ワケ、解ンねっ……」
 リョウは力の入らない体でどうにか抵抗しようとしているようだったが、弄りがてら這い回る手にキャミソールをたくしあげられたので流石に固まってしまった。ふるん、と乳房が揺れるのが背後からも見えてゴロベエはゆっくりと片手を這わす。胸の突起を軽くいじってやれば小さくリョウの体が跳ねた。
「――あ……っん………!」
 甘い吐息を漏らしながら、かすかに身を捩らせる彼女。意地悪く、ゴロベエは空いている方の手を腰の辺りに滑らせていった。腹部や脇腹を撫で、殆ど下着のような丈の短いホットパンツの隙間に手を滑り込ませる。リョウは身を硬くして、愛撫に疼く体をひたすらに抑えようと足掻いた。
「っ―――、ゃ…ァッ……!?」
 途端、ゴロベエの太い指が未だ充分に濡れていない、そこにねじ込まれ、リョウがたまらず高い声を上げる。
「痛っ――……駄ッ…、やだァ……!」
 力の全く入らない身体でどうにかしようともがく彼女をよそに、ゴロベエは奥の方へと指を進めて中をかき回した。
「少し、我慢しろ」
 耳元でそう囁くと、そこから首筋にかけてに舌を這わせ、吸い付き、赤い痕を散らす。同時に先程胸を弄んでいた方の手で、解すように脇腹や太腿を撫でていく。
「んっ――ぁ、………んンッ」 痛みは何時しか快楽にすり替わり、次第に蜜が溢れてきた。クチュクチュとわざとらしく水音をたて、ゴロベエは密かにほくそ笑んで指を一本増やす。そして馴れてきたと見ると、また一本増やしてかき回した。
「……そろそろ良いか」
「っ――」
 ずるりと指を引き抜き、絡み付いた蜜を舐め取る。リョウはと云えば、壁にもたれるようにして手をつき、荒い息をついていた。腰を支えていなかったら、その場に崩れそうだ。
「――リョウ」
 優しげにその名を呼びながら、ゴロベエは片手を彼女の頬に添えて振り返させると、深く口付ける。
「ん……、ふっ――……んん゛っ!」
 不意に焼けた杭が其処に打ち込まれて、リョウの身体かびくりと跳ねた。微かな痛みを伴って狭い胎内に押し入ってくる圧倒的な熱の塊に、流石に息が詰まる。
「……相も、変わらず―――」
 その狭さに小さく独りごちながら、ゴロベエはそのままリョウにのしかかるように身体を密着させた。肉をかき分けるずぶりとした感覚が、敏感になったゴロベエの雄を揺さぶる。そのままずぶずぶと腰を沈め、更に深く腰を突き入れてやると、ついに女の最奥に雄が達した。
 ふっ、と短く息を吐き出して、ゴロベエは再び優しげにその名を呼んだ。
「……リョウ、動くぞ」
 そう告げて、彼はまずゆるゆると腰を動かし今一度慣らす。それだけでも、グチュグチュといやらしい水音がたった。しかし勿論、ゴロベエ自身もそれで満足はしない。リョウの腰をしっかりと捕まえて雄をギリギリまで引抜くと、少し乱暴とも言えそうなくらいに、腰を打ちつけ初めた。
「!? ぅ……くぅッん、ふ―――ゴロさ、んっ! やぁっ…!」
 律動が次第に激しくなっていくのに合わせ、悲鳴ともよく似た甘い嬌声が上がる。
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